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正義と悪に愛を添える地獄〜舞台『地球防衛軍 苦情処理係』感想

「つなし、絶対キレるから見て欲しい」
そんな風に誘われ、「え〜〜!何それキレた〜〜い!!」って気狂い全開で中山優馬くん主演舞台「地球防衛軍 苦情処理係」に行ってきた。怒りはエンタメである。しかしキレるどころか大号泣だった、こんなの聞いてなかったよ……。
ネタバレには配慮しないのでご注意を。


主人公・深町くんが勤めるのは地球防衛軍への苦情対応を引き受ける苦情処理係。そこには日々、怪獣を倒せなかった航空隊への苦言や意図せず壊してしまった民家の賠償を要求する罵声など、様々な苦情が寄せられていた。
ある日、怪獣に苦戦する防衛軍の前に「ハイパーマン」と呼ばれる巨大ヒーローが現れる。それこそ、密かに地球へやってきた正義の宇宙人、深町くんの本当の姿だった。正体を隠しながら戦いつつ、地球人の苦情に思い悩む深町くん。ある日、苦情処理係に松永さんという新人女性がやってきて……というのが主なあらすじ。


前情報を入れず行ったため、ウルトラマンだー?!ガワも気合い入ってるし円谷っぽい!と驚いたのだがまさかの円谷プロ監修らしい。おい待て実質公式やないか。
優馬くんについては、B.I.Shadowとデビュー経験もあるし勝利くんの尊敬する先輩でもあり優馬担に義務を課せられて読んだ1万字インタビューの印象も強く、好感度はかなり高い。EndlessSHOCKも良かったしね。あと彼もヒーローの魂を持ってる。つまり実質ウルトラマンに変身したのメッチャ羨ましいしメッチャ良い。


人類の為に戦っているはずなのに、戦えば戦うほど何故かハイパーマンにヘイトが向けられていく。(鴻上さんの脚本舞台は初めて拝見したのだが、ヘイトの集まり方がご自身の炎上経験も合わさって非常によく出来ていた。Twitter炎上もこんなもんだ)ハイパーマンへの心無い声に怒る松永さんとの距離は次第に縮まっていき、遂には恋仲に。そんな中彼女に正体がバレてしまうのだが、同時に彼女もアートン星人という宇宙人だと知ってしまう。
彼女の故郷アートン星は暴走したエネルギーにより滅びゆく状況にあり、種族全員が移住できる星を求め調査しにきたという。身勝手な言い分ばかりの地球人に守る価値なしと判断した松永さんは、地球人を滅ぼしこの星でアートン星人と、私と共に生きよう、と提案するのだった。
ここで印象的だったのが、アートン星のエネルギーが暴走したのは自業自得だろうと突っ込まれた松永さんが「そうよ。でも私たちは反省した。もう二度と過ちを繰り返さない為にも、新しい故郷が必要なの」と返すこと。「反省」と都合のいい言葉を使って身勝手な事を言っているのは、地球人も松永さんも同じではないか。
彼女の提案は恋人の優しさともとれるものだったが、深町くんは簡単には呑み込めない。どんなに罵られようと地球を守るのが自分の使命だからだ。躊躇する深町くんに、松永さんはある事実を教える。そもそも地球になぜ怪獣が出現するのか?それは、ハイパーマンである深町くんが所属する宇宙統一軍の過去の実験の結果、その星に渦巻くマイナス感情が実体化し怪獣となっていた。誇りに思っていた自らの使命がただの責任の尻拭いであったことを知らされ、深町くんは正義・使命・愛に板挟みになっていってしまう。


途中、私は大好きなウルトラマンオーブのギャラクトロン回を思い出していた。

ネバー・セイ・ネバー

ネバー・セイ・ネバー

  • メディア: Prime Video

ざっくりと説明すると、
ある日地球にやってきた未知のロボット・ギャラクトロンは「人類は紛争を起こし地球を汚染する悪」と認定し、正義のため生態系のリセットを敢行する。主人公クレナイ・ガイ/ウルトラマンオーブはギャラクトロンを止めるため、禁断の闇の力サンダーブレスターに手を出す。結果ギャラクトロンは止められたが、巻き添えになったヒロインは瀕死、援護に来た地球防衛軍の航空機も叩き落とし、甚大な被害を出してしまった。ガイは自分の犯した罪を悔やみ、姿を消す。その後、仲間たちの元に航空機のパイロットが奇跡的に助かったと連絡が入った。暴走した正義が悪と断定した人類の科学技術が、パイロットの命を救っていたのだった。


今回の舞台と上記の話は同じく「正義と悪は多面的である」というものだと思う。正義とは一概に素晴らしいものではなく、悪とはすべからく悪い訳では無い。
ハイパーマンは怪獣を倒すが、その巨体は人間の命も奪っている。アートン星人を守るために、地球人は殺す。不条理な苦情を浴びせてくる人には、そうしてまで守りたかったものがある。
周りの人達や自身の正義の多面性をまざまざと見せつけられ、もうどうすればいいか分からない。松永さんに「僕はもう、君が好きかどうか、分からない。」と告げる深町くんに涙が止まらなかった。彼はただ、守りたかっただけだ。正義を愛を、信じていたかっただけなのに。
ラスト、巨大化した松永さん――アートン星人とハイパーマンの戦い。いつか愛を誓った時に流れていたのと同じ優しい曲が流れている。
「このまま二人で、駆け落ちしてしまおうか」
戦いのさなか、深町くんは呟いた。好きかどうかもう分からないと告げたその口で。もう何も傷つけまいと選んだだろうその言葉に彼女も同意し、街を守り、破壊し、抱き合いながら、そうやって二人は遠い夜空の先に消えていったのだった。


まさしくこの舞台は、正義に向かい合い苦悩しながら自らの答えを模索した、私の好きな、愚直な正義の味方の話であった。とてもとても、面白かった。