何が俺をこんなに熱くさせる?

キャラクター考察が主食のオタク

誰かのために生きる業〜舞台『DREAM BOYS』感想

2021年9月11日、私は有楽町駅を降りた。風磨担の奇跡に便乗し、風磨くんと樹くん主演舞台『DREAM BOYS』を観劇するためである。ジャニーズ行事にて帝国劇場へ向かうのは2018年の『Endless SHOCK』以来で、あの時雷に打たれたような気持ちで劇場を後にして「いつか帝国劇場の0番に立ちフライングする勝利くんを見る!」とジャニワジャニアイの霞を食べていた私だが、まさか先に風磨くんの姿を見ることになるとは予想していなかった。ありがてぇ。
しかし肝心のドリボに対し、なんかボクシングの話なんでしょ?くらいのミリしら知識での参戦である。演出に堂本光一くんがついているにしろ、狂気のプロデューサー・ジャニー喜多川作の舞台だ。一度きりの観劇で理解できるのか一抹の不安は抱えていた。というか風磨くんがフライングするのはほぼ確定なのでその瞬間狂ったように泣いてしまうのも確定していた。不安だ。どんな精神状態で見るんだ。でも隣には気が狂いそうになってる風磨担もいて心強かったので無事に観劇することができた。


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結論。
ドリボむちゃくちゃ良かった。

孤児院で出会い親友だったフウマとチャンプことジュリ。ジュリがフウマへボクシングを教えたことをきっかけに二人でボクサーの道へと進むが、フウマがジュリとの試合を棄権し逃げたことから二人は疎遠になる。ある時からフウマはお金を稼ぐことに固執し、俳優へと転身していた。
そして、8年後。ボクサーとして名を上げたジュリの生涯を映画化する事になるが、その主演をかつての親友・フウマが務めることに納得のいかないジュリ。彼が主演を許す条件として提示したのは、あの時放棄した試合を再び行い勝つことであった。あれからボクシングを一切捨てたフウマにとって現役のジュリとの試合は圧倒的に不利だ。しかしフウマは心臓の悪い弟・コウキの治療費を稼ぐために映画を成功させることに賭けていて、はなから選択肢などない。けれどフウマはもう一つの事実も知っている。8年前彼が試合を放棄したその理由、ジュリは頭部に病気を抱えていて先が長くないことを……。
時を経て奇しくも再度行われたフウマとジュリの試合。フウマにとって、コウキの命とジュリの命どちらかを必ず選ばなければならない残酷な試合。そしてフウマは選ぶのだ、弟の命を。そこからさらに歯車は狂っていく……。

私はアイドルのキラキラな舞台を見に来たはずなのだが?『Endless SHOCK』の衝撃もすさまじかったが、ドリボもなかなかのメンタルキラー舞台だった。フウマに業を背負わせすぎな件。しかもところどころでスーパーカコヨパフォーマンスも襲ってきてこちらは次々に記憶喪失になり錯乱寸前である。歌詞もメロディラインも忘れたけどあの曲を次の風磨くんソロに採用してほしい。何もかも忘れたけど。


個人的に印象的な場面がある。
ひとつ、コウキの病室でのシーン。揉み合う中でレイアを刺してしまったコウキを庇いフウマは殺人未遂の罪も背負い逃亡。唖然としたコウキは心臓発作で倒れてしまい、そのまま入院してしまった。目が覚めたベッドの上で、自身が所属するグループのTV出演を目撃する。コウキが欠けたグループは神妙な顔で「この曲は今、入院しているコウキと共に歌います。彼のために、彼の戻る場所を守るために。」と語る。それを見たコウキの堰を切った様な叫びは劇場中に響いた。
「やめてくれよ!皆みんな、俺のため、俺のためって!全部俺のせいじゃないか!やめろよ、やめてくれよ……!!」
もう一つ、警察から逃亡するフウマのシーン。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』よろしく舞台中央に一本のロープが下りたその瞬間から嫌な予感しかしないのに、フウマはそれに手をかける。命綱のないロープフライングののち、彼は意を決したように上へ上へと登っていく。すると幻影のように現れたジュリが一刀両断、フウマは奈落へと真っ逆さまに落ちていき……あとには短いロープがまるで蜘蛛の糸のように月も星もない空の中途に短く垂れているばかりである……。

蜘蛛の糸は言わずもがな、病院のシーンがかなり好きだ。フウマや仲間の優しさがコウキを苦しめるこの場面は川崎皇輝くんの熱演も相まって涙を誘う。「誰かのため」というのは「誰かのせい」でもあること。休憩もなくひたすら人間の業を見せてくるのがドリボの恐ろしいところだった。もちろん、日本が舞台のはずなのに絶妙に治安の悪い西部みたいな7MEN侍と少年忍者くんたちのようなジャニーズ特有のトンチキさも随所に光る。それなのに、虚しさややるせなさの方が強くこみあげてくる。
罪に追い詰められるフウマ、死に追いかけられるチャンプ、お互いを思いやるあまりに口を閉ざし、すれ違うけれど、それでも「誰もが誰かのために生きている」と優しく歌う。決して爽やかですっきりした話ではないがそれでも確かに胸に残るものがあるのだ。


……と、ストーリー主観にて好きなシーンを書き起こしていったが、曲も演出も衣装も全て良かった。試合着が白金のフウマと黒銀のジュリの対比マジ最高。曲は次々に記憶を失ったので、音源も円盤も是非買わせて頂きたいと思うのでご検討の程よろしくお願いします。