何が俺をこんなに熱くさせる?

キャラクター考察が主食のオタク

特別でないアイスクリーム〜舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』感想

舞台にッッ立つッッ勝利くんが見たいッッッ!!!!というのは私のかねてからの願いだった訳だが、やっと実現したことにまずは感謝したい。しかも東京芸術劇場というスーパーカッコイイ外見の劇場でだ。勝利くんも東京芸術劇場がカッコイイからやりたかったそうで。同感。
という訳で台風の迫る9月18日、奇跡的に当たった初日のチケットを握りしめて私は劇場へ向かっていた。これは余談だが台風が迫っているというのに傘を持たずに来てしまったので池袋で折り畳み傘を購入した。東武1Fの売り場にて何気なく手に取った傘が13,000円で「身の丈に合わない…」とそっと戻して3,000円くらいのにした。良いエピソードトークになると思う。(?)

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ここぞとばかりにぬい活!(ドリボでは忘れてた)



舞台は第二次世界大戦の足音が迫る1937年。ブライトンビーチに住むジェローム家の末っ子ユージンは時事に歯牙もかけず、大好きなヤンキースの真似をしながら野球ボールで遊び、回顧録と称した日記を記している日々。ユージンの家には父ジャック、母ケイト、兄スタンリーの他に、ケイトの妹である叔母ブランチが娘のノーラとローリーを連れて居候している。この時代において戦争の影が落とす不況や人種差別や貧しさは普遍的で、少しでも豊かに生きようと日々起こる問題にそれぞれが必死に向き合う中、14歳のユージンが直面する「性」への目覚めが何とも可愛らしく写る。ノーラへのくすぶる気持ちから兄仕込みのナプキンを落とす方法で何度も机の下の脚を覗き、トイレ最中をノーラに見られてこの世の終わりのように落ち込み、兄から懸命に女性の裸がどんなものかと聞き出そうと奮闘する。その幼さに微笑まずには居られない、カワイイ。嫌いなキャベツとレバーの炒め物は食べず、オートミールクッキーに手を出して怒られるユージン(カワイイ)。滅多に買わないチョコレートを大量に買ってくるよう頼まれて「身分証持ってかなきゃ…!」と捌けるユージン(カワイイ)。買い物を頼まれすぎて「買い物オリンピックなら優勝だよ!」とプリプリするユージン(カワイイ)。兄スタンリーの悩みの際にすぐ女性の裸の話をして「お前は俺が悩んでる時に女の裸の事ばっかりか?!」と怒られるユージン(カワイイ)。昔スタンリーから貰ったメダルをまだそんなもの持ってるのかと笑われて「でも僕には大事なものなんだ…」としょんぼりするユージン(カワイイ)。可愛いの大安売りやで……。性や恋愛の話を家に持ち込まなかったと話す勝利くんは同じくデビュー時の14歳にはこんな感じではなかったと思うので、そこに一抹のエモさも感じてしまうのだ。
軽快な会話劇が特徴のこの戯曲で、父ジャックの人格者っぷりも推したい。小さな家の中で起こる様々な問題に耳を傾け時に怒り時にアドバイスをし、そして最後には本人に委ねる。自らの意見も出しつつ相手の心の安全と自由も保証する家長ぶりは神保さんの優しく厳かな演技も相まってとても素晴らしく、先週観劇した皆抱え込みすぎ案件ドリボの面々も見習わんかい!と思わず叱咤してしまった。それと心に残ったのは「どんな人間でも、アイスクリームを前にすると浮ついてしまう」と嬉しそうにアイスクリームを買いに行くユージンのセリフ。そうだ……アイスクリームが荒んだ心を豊かにするのは事実……。共に観劇した風磨担と「ドリボに足りなかったのはアイスクリーム説」も浮上した。ドリボのみんなアイス食って元気になれ。
そして何より得がたいなあと思うのは入野自由さんとの共演だと思う。子役上がりで上手いし喋れる上に勤勉で品行方正なイメージの自由くんとは是非今後も関わりを持っていて欲しい!パンフでは一人っ子の自由くんが「神様!こんな可愛い弟をありがとう!」「今後勝利くんが他の人と兄弟役やってたら嫉妬しますね」と言っていたのでオタクはニッコリである。



この物語の中心であり語り部でもあるユージン役の勝利くんは休む暇もないくらいずっと喋っていた。キラキラと目を輝かせながら舞台を楽しんでいる様子に私も嬉しくなってしまった。この作品では特別に何か日常を変えてしまうような大きな事件は起こらない。だからこそ、穏やかな日常が特別である事を知っている勝利くんが好きそうな戯曲だと思った。良い作品に出会えたこと、ファンの一人としてもうれしく思う。
残念ながら原作である『ニール・サイモン戯曲集』は読めてないのだが、この作品は『BB三部作』と呼ばれるユージンの大人になるまでの物語の導入だと知り、是非後半の2作品も見てみたいと思い馳せながら私もまた日常へと戻るとする。時に苦悩が襲ったならば、アイスクリームを食べるとしよう。